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【検証】8985 ホテルリートの本質価値、コロナ契機に5割減!?

[目次] 

ホテル系REITが売られている・・

R.ビフェットです。

新型コロナウイルス拡大の影響を受けて、ホテル系REITが大きく売り込まれています。

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2019年末までは旺盛なインバウンド需要を背景に、ホテル建設ラッシュが続いていました。ホテル特化型REITは好調なホテル業績を受けて、投資口価格も緩やかに上昇基調を描いていました。

 

しかし、感染拡大対策によるインバウンド需要及び出張需要の激減が予測され、2020年に入り急落。以降、2020年3、4月と開示されるホテル稼働実績は壊滅的です。

 

本記事では今後もホテルREITは低迷を続けるのか否かについて、日本最大のホテル特化型REIT「ジャパン・ホテル・リート投資法人」を例に検証します。

 

8985 ジャパン・ホテル・リート投資法人とは?

  

2006年6月に上場した日本最大のホテル特化型REITです。運用資産は2019年12月末時点で、43物件3,745億円(取得価格ベース)となっています。

投資口価格は下記の通り、▲55.7%急落しています。 

2019年12月末の終値81,200円

2020年4月末の終値36,000円

 

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※ジャパン・ホテル・リート投資法人HPより

今後、投資口価格の反転は期待できるのかを、ホテル賃料収入の観点から検証しました。  

 

【結論】数年後に変動賃料の回復を想定すると、本質価値40,000円以上か

投資口価格は次の通り推移すると考えています。

  • 短期的には「分からない」
  • 長期的には「変動賃料の回復に伴い、本質価値へ収斂」

短期的な投資口価格は主に需給により決まりますが、そこは専門外ですので、長期的な価格形成の理由を記載します。

  

本質価値について

投資口価格の乱高下はいつ収束するかは分かりませんが、長期的な視点に立てば本質価値に収斂していきます。 

バリュー投資の父であるグレアム氏は次の通り述べています。

「短期的にみるとマーケットは投票機にすぎないが、長期的で見れば計量器だ」

※「バフェットからの手紙」より引用 

 

では、本質価値とはなにかですが、

ここでは「不動産が将来生み出す現金の割引現在価値」として進めます。

具体的には、将来見込まれるホテル賃料収入を、割引率で割り引いて投資口価格を求めましょう、ということです。

 

バフェット氏は、本質価値とは推定要素が含まれるため幅を持つものと語っています。

今回は想定する価値に幅を持って算定するため、3パターンに分けて試算します。(※筆者の主観のため、絶対的な数字ではありません。ご留意ください。)

  

ホテル賃料収入の予想

・前提

保有期間5年

売却時は直近の分配金が維持されるものとする

新規取得物件及び売却物件はない

破産はしない

 

■パターン1(ニュートラル)

2020年~2022年まで変動賃料が減少、その後は100%水準(=2019年)に回復

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直近の決算では、2020年12月末予想の賃料収入は固定賃料60%・変動賃料40%程度の割合で構成されています。

月次稼働を見る限り、少なくとも2020年中は苦しい状況が見込まれるので、賃料収入は上記グラフの通りとしました。固定賃料は2020年のみ10%減少を想定しました。

 

なお、2023年以降の変動賃料についてですが、著者としては回復すると見込んでいます。

ジャパン・ホテル・リート投資法人保有物件は、大半がネームバリューのある駅近の競争力を有する物件であり、宿泊需要の回復を早い段階から享受すると思われるためです。

 

なお、他のホテル系リートには競争力が劣ると考えられる物件もあり、この場合はもっと保守的に想定する必要があります。

 

以上の賃料収入に基づき分配金を計算すると、下記表の通り見込むことができます。

割引率については、2019年末の分配金利回り約5.0%から約4割保守的として、8.0%を採用しました。(バフェット氏の安全域の考え方を参考としています)

 

結果、左端黄色の40,032円が本質価値の考えに基づいた投資口価格です。

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■パターン2(ネガティブ)

変動賃料に加えて固定賃料も減額され、2024年でも以前の84%程度までしか回復せず

と想定した場合です。

この場合、固定賃料▲20%を考慮していますが、ホテルリートのオペレーター属性は優良といえますので、保守的な想定といえます。

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結果は下記、左端黄色の31,235が本質価値の考えに基づいた投資口価格です。

5年後の売却時においても2019年~2020年予想水準まで回復せず、さらに固定賃料の▲20%減額をも許容した試算です。

将来は分かりませんが、現時点の情報では賃料・割引率ともにかなり保守的な試算と言えます。

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■パターン3(ポジティブ)

2020年、2021年のみ変動賃料が落ち込み、その後V字回復

と想定した場合です。

投資法人保有する物件の質を勘案すれば、楽観的すぎることはないと考えています。(旅行需要が回復すれば、真っ先に予約で埋まるであろうホテルばかりです)

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結果、左端黄色の42,016が本質価値の考えに基づいた投資口価格です。
ニュートラルの場合と近しい結果となりました。

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直近の投資口価格の推移
2020年3月19日に24,320円の安値を付けた後、2020年4月末時点で36,000円まで回復しています。
ただし、デット・キャット・バウンスという言葉もあるように、一時的な反発である可能性にも留意が必要です。 
 

 

[まとめ]

筆者の試算では、本質価値(40,032円)と投資口価格(36,000円:2020年4月末終値)の乖離は約+11%です。

短期的には投資口価格は乱高下すると想定されるため、この乖離がどう変動するか注視したいと思います。

 

なお、楽観的に検証した場合でも本質価値への影響が小さかったのは、売却時の賃料想定が同じであったためです。保有中の分配金よりも売却時の分配金の方が、5年という保有期間においては重要であることが分かります。

よって、いつ宿泊需要が回復するかより、将来的にどの程度回復するかの方が、本質価値に大きな影響を与えます。

 

REITへの投資を考えている場合には、短期的な急落時にしっかり買い向かっていくことができるよう、事前に自身が満足できる購入水準を把握する必要があります。

 

今回の試算は比較的堅実な試算をしていますが、投資家各自の期待する利回りは異なりますので、投資する場合にはご自身の許容する範囲で事前に試算することをお勧め致します。

今回の記事が皆様のお役に立てば幸いです。

、●が理由で破綻し、不動産市場は長年にわたり低迷することとなります